Vaundy × Masashi Kawamura × Atsushi Makino × Morisawa
Special Interview

Vaundy × 川村 真司 × 牧野 惇 × Morisawa
スペシャル対談

音楽・映像・文字が奏でる相乗効果
リリックビデオを超えた、
文字が主役の新しいミュージックビデオ

モリサワは、フォントが音楽や映像と呼応し合うミュージックビデオ(以下、MV)を制作しました。追い求めたのは、リリースしたクラウド型フォントサービス“Morisawa Fonts”で利用できるフォント表現の新たな可能性。MVは彗星のごとくミュージックシーンに現れたマルチアーティストVaundy、「世界のクリエイター50人」にも選出されたクリエイティブディレクター の川村真司氏、クラフト的な表現で圧倒的な存在感を放つ映像ディレクター牧野惇氏のコラボレーションです。時代をリードするクリエイティビティあふれるお三方に、文字の魅力やフォント表現の可能性、MV制作の舞台裏などを伺いました。MVを何度も見返したくなるスペシャル対談です。ぜひ、最後までお楽しみください。

  • Vaundy /
    アーティスト

  • 川村真司 /
    クリエイティブディレクター

  • 牧野惇 /
    映像ディレクター

「あのモリサワと仕事したんだ」って、感慨深いVaundy氏

こだわりがたくさん詰まったMVが完成しました。出来上がったMVをご覧になった感想や、制作時の裏話を教えてください。(聞き手:モリサワ)

Vaundy僕はモリサワの製品を使っている側の人間なので、MVのオファーをいただき、普段から使っている製品を作っている会社と仕事ができるということで「あのモリサワと一緒に仕事できるの?」とワクワクしました。大学の友人や知り合いのデザイナーに話せば、「あのモリサワと!?」となるくらいクリエイティブの領域では当たり前の存在なので、「オレ、あのモリサワと仕事したんだ」って、感慨深いです。

モリサワ嬉しいお言葉ありがとうございます。川村さんには、Morisawa Fontsのロゴやタグラインの開発からお世話になっていたんですよね。

川村そうですね。僕を含めたWhateverのメンバーは、Morisawa Fontsのロゴやタグラインから関わらせていただいていました。その流れで、この新サービスの立ち上げを魅力的にプロモートする企画の1つとして、今回の書体見本帳を活用したMVを発案しました。単なる広告ではなく、普段直接リーチができないような若いデザイナーたちや書体を意識したことさえないような一般のお客様にも届く表現とするために、ミュージシャンとコラボして、歌のパワーと文字の力を掛け算したコンテンツを作ってみてはどうかと提案し、実現しました。MVの演出と制作は、僕がめちゃくちゃ信頼している牧野惇ディレクターにお願いしました。

牧野MVの制作は、“大変”の言葉しかありませんでした。アイディアを考えている時はこれほどまでに苦労すると思いませんでしたが、制作部から制作にかかる時間を言われたときに、現実に引き戻されました。実際、1文字をいくつかのパーツに切り分けてバラバラに撮影したので、文字部分の撮影だけで丸1日。自分で言い出したものの、実際やってみると修行のようでした。撮影日数は3日間で、文字を一遍ずつ動かす素材撮りなど、ブラックライトの下で永遠と文字の撮影を行っていました。

Vaundy今回のMVは、一般的なビジュアルのエフェクトより密度が濃く、しかもコンポーズも素晴らしくて、これが1つにまとまっていることが本当にすごい。映像制作の経験が少しでもある人なら、このMVが全部撮影で作られていると聞けば、驚きしかないと思います。僕は、これまでの3年間でMVをいくつも出してきましたが、今回のMVは文句なしに過去イチの密度になってると思います。

川村一番いただきました!

牧野ブラックライトの下で撮影して日焼けした甲斐がありましたね。

川村今回牧野さんには、これまでの経験をふんだんに活かしつつ、さまざまな新しいチャレンジをしてもらったと感じています。単なるリリックビデオになってしまわないように、アナログで切った文字を一つ一つ動かしたりといっためちゃめちゃ大変な作り方をしているのが映像のプロじゃなくても感じていただけるのではないかと。モリサワさんからも、初期の頃から、手作り感や手触りみたいな感覚にこだわりたいという話をいただいていたので、そこがうまく表現できたのではないかと思います。

Vaundyほんと、そうっすね。フォントもしかり、デザインもしかり、いまデジタルが中心になっていますが、僕は、悪い意味で中心になっているとも思っています。僕は、大学でフォントを作る授業を受けたことがあって、フォントづくりがどれだけ大変な仕事であるかを体験しています。アルファベットを制作しましたが、和文なら数千文字を作らなければいけません。そういったものをデジタル表現の中だけで収めてしまうのは、どれほどもったいないことか。今回、MVをアナログで作れたのは、クリエイティブの方々へ一石を投じることになるのではないかとも感じていますね。

川村牧野さんは、アナログへのこだわりが強いですよね?

牧野今回は、文字が主人公になってくるMVだったので、文字を動かすにあたって、自分の得意とする『クラフト』を活かすために、新たに『クラフトモーション』という手法を編み出しました。カメラに近づいてくるものをデジタルで表現すると、規則性が出てしまい、面白い表現になりにくいものです。わざとカメラの近くに上げて、ピントのブレを活かせたことも効果的だったと考えています。

Vaundy自分でもモーショングラフィックスを作りますが、MVではそれが生々しいというか、あれは、カメラのモーションではないと出ないイージング(加減速の効果)な気がします。

牧野今回はあくまで『モーショングラフィックス』でないといけないので、明るいところで制作すると、人間の手が入ってきたり、舞台裏が映像のノイズとなって文字の邪魔になったりする可能性がありました。そこで、余計なものが見えないようにブラックライトを使いました。

川村まさに文字が主人公というか、キャストの一員になっている感じがすごくあるMVになったと思います。記号がただ動いているというのではなく、フィジカルな文字が「膨らまされたり」「吹き飛ばされたり」することで、感情を持って演じている様に見える表現が実現できたと感じています。

言葉の大切さと無意味さの両面が描かれた、今回のコラボにぴったりの楽曲だと感じました。「置き手紙」はどのような経緯で生まれたのですか?

Vaundyもともと、「置き手紙」というデモ曲はあったのですが、ワンコーラスしかありませんでした。今回のオファーをいただき、この曲をベースに曲と歌詞を書き上げて完成させました。文字を見せるMVになるということで、普段以上に意識して歌詞を書きました。その結果、当初考えていた完成図の終わり方ではなく、不老不死の2人の話になりました。ただ、曲の構成や編曲は、わりと王道のJロックぽい作りになっています。僕は、文字からにじみ出てくる感情やストーリーラインを曲に出したくない人間なので、そこのバランスが取れればいいなと思って作りました。「いつまでたっても伝えられない、文字じゃ結局伝えられない」というのがオチだったりするんですけど、だけど、言葉にすることは大事だから、でも最後までは言葉にしない、というのがこの曲のいいところだと思っています。

文字をキャラクターととらえて配置や登場を考える牧野氏

映像を生かす“文字使い”には高度なテクニックが要求されるのではと思います。歌詞を文字で表現するうえで、特に意識された点はどのようなところでしたか?

川村私もMVを演出するときがありますが、主旋律以上に歌詞の世界をどうやって可視化するかという点にすごく時間をかけて考えます。何について歌っているのかという歌のコアをなるべく映像にしたいという想いがあるんです。今回もまず曲を聞かせていただいて、「魔法の言葉」や「伝えたい」といったキーワードから、モリサワのフォントがうまくはまりそうだという予感はありました。

牧野私はカラオケが好きではありませんが、行ったときに楽しいなと思えるのは、聞いたことがある曲だけど歌詞はあまり知らない場合に、歌詞が画面に表示されてわかることです。でも、文字だけのリリックビデオは好きではなく、今回のMVは、一般的なリリックビデオとは一線を画した作りにしたいと考えていました。

Vaundy僕も単純なリリックビデオは実はあまり好きではなく、なるべくMVではリップシンクもしないでほしいというリクエストをするくらい。今のメインは、視覚と音。視覚の中に文字があるのはナンセンスだと考えています。文字が出てくると、普通は、興ざめしてしまう。僕はストーリーを見せるのであれば映像をきちんと見せる、言葉で説明しない、文字を入れない、そこに美学があると思っています。今回のMVは、そういった点が払しょくされている。ここまでしっかりやると、文字に重みが出て、そこにストーリーが見えると感じました。牧野監督もその点を理解して作ってくださったように感じてます。

牧野編集している時に気を付けていたことは、画面内に文字を全部収めようとしないことでした。通常、文字を画面に入れるときは文字切れを起こさないよう、画角の90%程度にレイアウトしますが、今回のMVでは、文字が画面外に見切れる方が、迫力が伝わると思いそのような配置にしました。僕は、文字としてとらえず、キャラクターとしてとらえていましたので、どのように登場すればかっこいいかという視点から、配置や出し方を考えました。

デジタルの「Morisawa Fonts」、アナログのMV、この対比が面白い川村氏

それぞれの場面でフォントの個性を生かしていただけたと思います。フォント選びの進め方や気を遣われた点などお話しいただけますか?

川村Morisawa Fontsで提供しているすべてのフォントを確認させていただき、モリサワさんとデザイン・チームと監督でキャッチボールをしまくりました。

モリサワそうでしたよね。フォントリストはこのMVの肝だったので丁寧に調整していただきました。

川村どの歌詞をどのフォントでどのように表現するかや、どれくらいの頻度でフォントを切り替えればいいかといったことを想像しながらデザインの印象と歌詞が紐づきそうなフォントを選んでいきましたね。なるべく歌っている言葉の印象を強められるようにしたいよねと話しながらデザイナーたちと一緒に選定していきました。例えば、星空を見に行く場面のような、印象的で文字が少ないシーンには、インパクトがあり星空を感じるようなデザインのフォントを選んだりしています。

Vaundyブラックライトを使ったクラフトモーションのシーンで出てきたフォントが一番印象に残っています。あのフォントをこう動かすことができるんだ、という発見もありました。特に「会いに行くつもりは」の「会」の字がいいと感じました。「今日は」は、たぶんにじみ系のフォントですよね? 普段から使っているお気に入りのフォントです。「何も」とかすごくいいな。「モアリア」っていうんですね。遊びがあるのに収まっているので、いろんなシーンで使えそうですね。でも、MVを観て、自分自身、モリサワフォントが使いこなせていないことにも気づきましたね。こんなにたくさんの知らないフォントがある、これからもっと使っていきたいと思います。

川村自分達が提案しておいてあれですが、Morisawa Fontsはクラウドでフルデジタル化した一方で、MVはめちゃくちゃアナログという対比が非常に面白いと感じます。監督が一番力を入れたシーンはどこだったの?

牧野やはり、クラフトモーションですね。MVの冒頭、できるだけ早いシーンにクラフトモーションを入れて、こんなことをやっているという宣言をしたかった。編集でアニメーションが作れる時代に、このMVのような作り方は、まずしないやり方です。でも、クラフトモーションで作ったことが、今回のMVの一番の個性だと思っています。僕の中では、モーショングラフィックスは文字が伸縮することが特徴のひとつだと考えていて、エフェクトを使わずにやるにはどうすればいいのか試行錯誤しました。実際には、伸縮性のある布に文字を印刷し、下から大きなボールや手を当てて、文字を伸ばすという手法を使いました。布で表現する効果が出そうな文字をピックアップするために歌詞の文字を何度も読み返すなど、クラフトモーションに一番頭を使いました。

Vaundyこのアイデアを思い付いたとしても、僕には実現できない芸当だと思います。しかも撮影期間3日間では、到底無理なことです。牧野さんが今までやってこられた経験の積み重ねが活かされているのだと思います。

川村牧野さんは、制作に人一倍こだわる“変態”ですからね。

Vaundyさまざまな制約がある中で、これほど密度の濃い映像が作れたのは、本当に素晴らしいし嬉しいです。

最後に、MVをご覧になる方へメッセージをお願いします。

Vaundy牧野監督の血と汗と涙の結晶を、1秒1秒逃さず観てほしいですね。

川村Vaundyの楽曲・モリサワの書体・映像チームによるビジュアルが三位一体となって作り上げた、見どころの多いMVだと思います。いただいた曲が本当に素晴らしかったので、それに負けない映像を作らなければいけないという想いを持ちながら制作を進めましたが、結果、曲の魅力をさらに強くするようなMVができたのではないかと思います。 MVの最後のスタッフ・クレジットに作中で登場するフォント名を入れてある通り、“フォントが小道具ではなく登場人物になっている作品”になりました。なるべく多くの方に観ていただき、文字に対する興味も深めてもらえたら嬉しいです。

牧野クラフトモーションを使い、文字の意味を形に起こしたことで、編集をしながら文字の成り立ちを見ることができました。これまで記号としてとらえていた文字が、絵になって見えるようなMVになっていると思います。場面を表すような新たな「絵」が入っていたら、こんなにストイックな作品になっていなかったもしれません。“文字が絵になる”ということを最後まで貫けたことがよかったのではないでしょうか。これまで、映像を絵で構成することが多かった私にとっても、新たなチャレンジでした。MVを観る方にも、文字が絵になる感覚を感じ取ってほしいと思います。

インタビューを通じて、制作の裏側がよく分かり、改めてじっくりMVを観たいな、と言う気持ちになりました。そして、今回、Vaundyさんや、川村さん、牧野監督におっしゃっていただいように、フォントの発見や気づきを、MVをご覧になる皆さまにも感じていただきたいです。

Vaundy

現役大学生 22歳。作詞、作曲、アレンジを全て自分でこなし、デザインや映像のディレクション、セルフプロデュースも手掛けるマルチアーティスト。
2019年春頃からYouTubeに楽曲を投稿開始。リリースした楽曲は長期にわたりチャートインし、各方面でタイアップ曲に多数起用、現在サブスクリプション/YouTubeトータル再生数は26億回以上。7曲が1億回再生を突破、男性ソロアーティストとしては日本歴代1位。初の日本武道館2days公演、全国22本ホールツアーを含めこれまで開催したワンマンライブは全て即日完売。2023年末に自身最大となる5大都市10公演 18万人を動員するアリーナツアーを控えている。耳を捕らえ一聴で癖になる天性の歌声とジャンルに囚われない幅広い楽曲センスで、ティーンを中心にファンダムを急速に拡大中。

vaundy.jp

川村真司 / Masashi Kawamura

クリエイティブディレクター
Whateverのチーフクリエイティブオフィサー。180 Amsterdam、BBH New York、Wieden & Kennedy New Yorkといった世界各国のクリエイティブエージェンシーでクリエイティブディレクターを歴任。2011年PARTYを設立し、New York及びTaipeiの代表を務めた後、2018年新たにWhateverをスタート。数々のブランドキャンペーンを始め、テレビ番組開発、ミュージックビデオの演出など活動は多岐に渡る。カンヌをはじめ世界で100以上の賞を受賞し、Creativity「世界のクリエイター50人」、Fast Company「ビジネス界で最もクリエイティブな100人」、AERA「日本を突破する100人」に選出。

whatever.co/ja/team/masa

牧野惇 / Atsushi Makino

映像ディレクター
1982年生まれ。2006年よりチェコの美術大学UMPRUMのTV & Film Graphic学科にてドローイングアニメーション、パペットアニメーションを学んだのち、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーションコース修了。実写・アートワーク・アニメーションの領域を自在に跨ぎ、映像ディレクション、アートディレクションから、アニメーションディレクション、キャラクターデザイン、イラストレーションまで総合的に手掛ける。国内外の受賞歴多数。主な仕事:YOASOBI「群青」MV、東京2020パラリンピック開会式映像ディレクター、第72回NHK紅白歌合戦オープニング演出等。

ucho.jp